この記事では、消防関係法令の各類に共通する部分のうち、消防関係法令の用語の定義、防火対象物、消防の組織について解説していきます。
学習ポイント
- 防火対象物と消防対象物の違いのほか、消防関係法令の用語
- 防火対象物の区分と特定防火対象物に分類される防火対象物
- 消防の組織および消防機関等に与えられた権
消防関係法令の分類と用語の定義
消防に関する法令は、法律である消防法を頂点に、政令である消防法施行令、総務省令である消防法施行規則などで構成されています。
消防関係法令
法令とは、一般に、議会が制定する法規範である法律と、行政機関が制定する法規範である命令の総称のことで、法律、政令、省令などで構成されています。
法律は国会で制定され、政令は、法律の規定を実施するため、または法律の委任に基づいて制定されます。また、省令は、各省大臣が法律もしくは政令を施行するため、または法律もしくは政令の特別の委任に基づいて発せられます。
消防設備士に関する主な法令は、以下のとおりです。
分類 | 名称 | 凡例 |
法律 | 消防法 | 法 |
政令 | 消防法施行令 | 令 |
総務省令 | 消防法施行規則 | 規則 |
危険物の規制に関する規則 | 危規則 | |
火災報知設備の感知器及び発信機に係る技術上の規格を定める省令 | 感知器等規格省令 | |
中継器に係る技術上の規格を定める省令 | 中継器規格省令 | |
受信機に係る技術上の規格を定める省令 | 受信機規格省令 | |
消防庁告示 | ガス漏れ検知器並びに液化石油ガスを検知対象とするガス漏れ火災警報設備に使用する中継器及び受信機の基準 | ガス漏れ検知器等基準 |
火災通報装置の基準 | 通報装置基準 | |
地区音響装置の基準 | 音響装置基準 |
用語の定義
消防法令上の用語について、「防火対象物」「特定防火対象物」「複合用途防火対象物」「無窓階」「関係者」の定義は最低限覚えましょう。
防火対象物
防火対象物とは、山林又は舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属する物をいう。(法2条2項)
『船きょ』とは、船舶の建造や修繕、荷役作業などを行うための構造物で、ドックとも呼ばれます。
消防対象物
消防対象物とは、山林又は舟車、船きよ若しくはふ頭に繋留された船舶、建築物その他の工作物又は物件をいう。(法2条3項)
関係者
関係者とは、防火対象物又は消防対象物の所有者、管理者又は占有者をいう。(法2条4項)
関係のある場所
関係のある場所とは、消防対象物・防火対象物のある場所をいう。(法2条5項)
舟車(しゅうしゃ)
舟車とは、船舶安全法第ニ条第一項の規定を適用しない船舶、端舟、はしけ、被曳船その他の舟及び車両をいう。(法2条6項)
危険物
危険物とは、(消防法)別表第一の品名欄に掲げる物品で、同表に定める区分に応じ同表の性質欄に掲げる性状を有するものをいう。(法2条7項)
消防用設備等
消防用設備等とは、政令で定める消防の用に供する設備、消防用水及び消火活動上必要な施設をいう。(法17条1項)
特定防火対象物
特定防火対象物とは、第十七条第一項の消防用設備等の技術上の基準に関する政令若しくはこれに基づく命令又は同条第二項の規定に基づく条例の規定の施行又は適用の際、現に存する百貨店、旅館、病院、地下街、複合用途防火対象物(政令で定めるものに限る。)その他同条第一項の防火対象物で多数の者が出入するものとして政令で定めるものをいう。(令17条の2の5 第2項4号)
複合用途防火対象物
特定用途防火対象物とは、防火対象物で政令で定める二以上の用途に供されるものをいう。(法8条1項)
2つ以上の異なる用途が存在する防火対象物で、1つでも特定防火対象物が含まれると、その建物全体は特定防火対象物となる。
無窓階
無窓階とは、建築物の地上階のうち、総務省令で定める避難上又は消火活動上有効な開口部を有しない階をいう。(令10条1項5号)
『窓が無い階』ではない!
防火対象物の区分と特定防火対象物
消防法では、建築物など火災予防行政の主たる対象となるものを「防火対象物」と定義し、広義には一般住宅も含まれます。一方で、消防法施行令においては、消防法施行令別表第一(令別表第一)に掲げる建築物等を「防火対象物」(狭義)と指定しています。(令6条)
当サイトでは、令別表第一に掲げる防火対象物を「防火対象物」として扱います。
防火対象物の区分
防火対象物は、その用途によって以下のように分類されています。
項別 | 防火対象物の用途等 | |
(1) | イ | 劇場、映画館、演芸場または観覧場 |
ロ | 公会堂または集会場 | |
(2) | イ | キャバレー、カフェ、ナイトクラブその他これらに類するもの |
ロ | 遊技場またはダンスホール | |
ハ | 性風俗関連特殊営業を営む店舗 | |
ニ | カラオケボックス、インターネットカフェなど個室を営む店舗 | |
(3) | イ | 待合、料理店その他これらに類するもの |
ロ | 飲食店 | |
(4) | 百貨店、マーケットその他の物品販売業を営む店舗または展示場 | |
(5) | イ | 旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの |
ロ | 寄宿舎、下宿または共同住宅 | |
(6) | イ |
(1)~(3) 病院、入院・入所施設を有する診療所・助産所 |
ロ |
(1) 老人短期入所施設、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホームなど |
|
ハ |
(1) 老人デイサービスセンター、老人福祉センター、老人介護支援センター |
|
二 | 幼稚園または特別支援学校 | |
(7) | 小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、高等専門学校、大学、専修学校、各種学校その他これらのに類するもの | |
(8) | 図書館、博物館、美術館その他これらに類するもの | |
(9) | イ | 公衆浴場のうち、蒸気浴場、熱気浴場その他これらに類するもの |
ロ | イに掲げる公衆浴場以外の公衆浴場 | |
(10) | 車両の停車場または船舶若しくは航空機の発着場(旅客の乗降又は待合いの用に供する建築物に限る) | |
(11) | 神社、寺院、教会その他これらに類するもの | |
(12) | イ | 工場または作業場 |
ロ | 映画スタジオまたはテレビスタジオ | |
(13) | イ | 自動車車庫または駐車場 |
ロ | 飛行機または回転翼航空機の格納庫 | |
(14) | 倉庫 | |
(15) | 前各項に該当しない事業場 | |
(16) | イ | 複合用途防火対象物のうち、その一部が特定防火対象物の用途に供されているもの |
ロ | イに掲げる防火対象物以外の複合用途防火対象物 | |
(16の2) | 地下街 | |
(16の3) | 準地下街 | |
(17) | 重要文化財、重要有形民俗文化財、史跡若しくは重要な文化財として指定され建造物 | |
(18) | 延長50メートル以上のアーケード | |
(19) | 市町村長の指定する山林 | |
(20) | 総務省令で定める舟車 |
消防施行令別表第一(一部省略)※青網掛けは特定防火対象物
特定防火対象物
防火対象物のうち、不特定多数の人が出入りする施設や、火災発生時に、利用者の避難が困難で人命危険が高いとされる施設は、特定防火対象物として厳しく規制されています。特に、令別表第一の(6)項イは細分化されていますので混同しないように注意しましょう。
(6)項 イ 病院・診療所・助産所
令別表第一では、病院・診療所・助産所を以下の4つに分類しています。また、入院施設有無の2種類にも分類しています。
(6)項 イ | 入院 施設 |
||
(1) |
いずれにも該当する病院
|
あり
|
|
(2) |
いずれにも該当する診療所
|
||
(3) |
|
||
(4) |
|
なし |
特定診療科名
特定診療科名とは、内科、整形外科、リハビリテーション科のほか、以下の診療科名以外のものをいいます。
- 肛門外科、乳腺外科、形成外科、美容外科、小児科、皮膚科、泌尿器科、 産婦人科、眼科、耳鼻いんこう科、産科、婦人科、歯科
(6)項 ロ 自力避難困難者入所施設
老人ホームをはじめとした社会福祉施設のうち、自力で非難することが困難な人が入所または入居する施設が(6)項ロに該当します。
(6)項 ハ その他の社会福祉施設等
(6)項ロに該当しない社会福祉施設等が、(6)項ハに該当します。
消防の組織および消防機関の権限等
日本の消防行政を統括している組織は、国の機関である総務省の外局として設置される消防庁です。東京都に設置される東京消防庁とは別の組織であり、特段の断りがない限り、当サイトでは「消防庁=総務省消防庁」として取り扱います。
消防の組織
消防の組織については、消防組織法で国の行政機関および地方公共団体の機関について定められています。
消防組織法は、消防の任務について「消防は、その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うことを任務とする。」(消防組織法1条)と定めています。
消防庁
国家行政組織法および消防組織法に基づき設置され、日本の消防行政の企画・立案、各種法令・基準の策定など行う国の行政機関であり、消防庁のトップは消防庁長官です。消防庁の主な業務は以下のとおりです。
- 消防制度などの企画立案
- 防火査察、防火管理やその他の火災予防の制度や企画の立案
- 消防職員や消防団員の教育訓練や基準に関すること
- 消防の用に供する設備や機械器具等の検定
- 危険物の判定や保安に関すること
- 危険物取扱者や消防設備士に関すること
消防本部(消防局)
消防本部とは、消防組織法に基づき、原則として各市町村に設置されている常備の消防機関(消防専門の部局)で、消防本部のトップは消防長です。
政令指定都市、中核市または消防組合等で人口の多い消防本部では、消防局と称することがありますが、法的には「消防本部」といいます。
消防本部の業務実施機関として、消防署(分署、出張所を含む)が設置され、消防本部(消防署を含む)に勤務する消防職員は、消防階級を持ち、火災や災害現場で活動する消防吏員(しょうぼうりいん)と、消防署内で事務を行う一般職員で構成されています。
消防吏員は、消防業務に専門的に従事する常勤一般職の地方公務員で、一般的に消防士や消防官と呼ばれています。
日本の消防は、自治体消防制度に基づき、消防機関は市町村長の管理下にあり、市町村が消防の責任を負っています。そのため、消防庁長官や都道府県知事は市町村消防へ助言・勧告・指導を行うにとどまり、市町村消防を管理する権限を持っていません。
ただし、東京消防庁は例外で、特別区(23区)の消防を担う東京都の機関として、都知事が管理しています(消防組織法26条・28条)。また、消防事務委託制度の利用により、多摩地域30市町村のうち29市町村は、東京消防庁に対して消防事務を委託しており、東京都内で独自に(消防組織法の原則通りに)消防本部を設置しているのは、多摩地域の稲城市、伊豆諸島の大島町、三宅村、八丈町の4市町村となっています。
消防団
消防団は、消防組織法に基づき、すべての市町村に設置されている非常備の消防機関で、消防団のトップは消防団長です。
山岳地帯や離島の一部など、常備消防機関(消防本部等)が設置されていない地域では、消防団が常備消防を担っていることがあります。
消防団は通常、他の職業等に就いている一般市民である団員で構成されており、団員は、平時には予防・防災活動、訓練、応急手当の普及指導を行い、火災・災害発生時には消火・災害活動を行う、非常勤特別職の地方公務員です。
伊豆諸島の5村(利島村、新島村、神津島村、御蔵島村、青ヶ島村)や小笠原諸島の小笠原村のほか、慶良間諸島の渡嘉敷村、座間味村など全国の29町村(7町22村)では、常備消防が未設置のため消防署はなく、地元住民で構成される消防団が消防を担っています。(令和3年4月1日現在)
消防機関等の権限
消防長(消防本部を置かない市町村においては、市町村長)、消防署長その他の消防吏員には、火災の予防に危険であると認める行為者や物件について措置命令は発することができるほか、火災予防上のために必要があるときは立入検査を行うなどの権限が与えられています。
屋外における火災予防上の措置命令(法3条)
消防長(消防本部を置かない市町村においては、市町村長)、消防署長その他の消防吏員は、屋外において火災予防上危険であると認める行為者、または危険であると認める物件、もしくは消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める物件の所有者等に対し、以下の措置命令を発することができます。
- 火遊び、喫煙、たき火、火を使用する設備や器具の使用に際し、火災の発生のおそれのある設備や器具の使用のほか、これらに類する行為の禁止・停止・制限、またはこれらの行為を行う場合の消火準備
- 残火、取灰または火粉の始末
- 危険物や放置された燃焼のおそれのある物件の除去その他の処理
- 放置された物件の整理または除去
法3条に基づく措置について、消防団長や消防団員には、命令を発する権限はありません。
立入検査等(法4条)
消防長(消防本部を置かない市町村においては、市町村長)、または消防署長は、火災予防のために必要があるときは、関係者に対して資料の提出を命じ、報告を求めることができるほか、必要であれば、時刻にかかわらず、事前通告なしで、消防職員に関係のある場所に立ち入って、消防対象物を検査させることができます。ただし、個人の住居であるときは、以下の場合に限られます。
- 関係者の承諾を得た場合
- 火災発生のおそれが著しく大きく、特に緊急の必要がある場合
火災予防上、特に必要があるときは、消防団員に立入検査をさせることができますが、この場合には、立入検査する消防対象物および期日または期間を事前に指定する必要があります。
防火対象物に対する措置命令(法5条)
消防長(消防本部を置かない市町村においては、市町村長)、または消防署長は、防火対象物の位置、構造、設備または管理の状況について、権原を有する関係者に対し、必要に応じて以下の措置命令を発することができます。
防火対象物の改修、移転、除去、工事の停止または中止
- 火災予防上危険であると認める場合
- 消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める場合
- 火災が発生したならば人命に危険であると認める場合
- その他火災の予防上必要があると認める場合
防火対象物の使用禁止・停止・制限
- 必要な措置が命ぜられたにもかかわらず、その措置が履行されず、履行されても十分でなく、期限までに完了する見込みがないため、引き続き、火災の予防に危険であると認める場合
- 消火、避難その他の消防の活動に支障になると認める場合
- 火災が発生したならば人命に危険であると認める場合
防火対象物に対する措置命令は、消防長または消防署長だけが発することができ、その他の消防吏員や消防団員は発することができません。
消防同意
消防同意とは、消防長または消防署長が、防火対象物における消防上の安全確保のために、特定行政庁または指定確認検査機関が建築物の新築、増築、改築等による建築確認を行う際、その建築物の計画が消防法令の防火に関する規定に違反しないものであるときに、同意することをいいます。
一般建築物については、同意を求められた日から3日以内に、その他の場合には、同意を求められた日から7日以内に同意を与えて、その旨を特定行政庁または指定確認検査機関に通知しなければなりません。また、同意することができない事由があるときも、これらの期間内に、その事由を通知しなければなりません。
消防同意の流れ
理解度チェック
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